こういうことが出来るのも登記法や司法書士法改正による事務所の法人化と、コンピュータネットワークの発展それに、保険制度の充実が大きくその理由を占めている。オフィースのコンピュータ端末は、法務局はもちろん、銀行、市役所などとネットワークでオンライン化され、対象物件に関するあらゆる情報が瞬時に取り出せる仕組みになっている。例えば、登記情報を始めとして、字図、地図、測量図等の図面類、固定資産の評価額、都市計画法上の用途区域、建築基準法上の制限事項等簡単操作ですぐに取り出せる。取り出すばかりではなく、登記情報入力(旧来の登記申請)も端末を使って簡単にできるようになったのである。もちろん、日本全国各地の不動産に対して居ながらにしてである。今や<登記総合情報センター>は、情報入手の場所ばかりではなく、取引決済の場所として、なくてはならぬ重要なポジションを占めている。

「所長、お客様がお見えですよ。」

 若い女性秘書が今日10時からの取引依頼者を決済室に通したと報告してきた。日間名は自分のマルチIDカードを持って決済室に入って行った。

「やあ、おはようございます。」

 日間名が言うが早いか、

「皆さんお揃いですので、早速お願いします。」仲介業者の目出田不動産の担当者が促した。

「それでは、早速手続さに入りましょう。」

 日間名はそう言うと、事前に秘書が取り出していたファイルに目を通し、コンピュータ端末に自分のマルチIDカードを差し込み物件入力を始めた。

「この物件に間違いないですね。」コンピュータ端末から取り出した物件情報を見せながら、日間名は当事者に確認した。

 

 
 
 

 

「それでは売主さん、あなたのIDカードを貸して下さい。」

 日間名は売主よりIDカードを預かり、端末機に挿入した。

「はい、次はあなたの登録番号をテンキーで打って下さい。」

 小さなテンキーボードを売主に渡すと、売主は誰にも分からないようにテンキーをたたいた。

 さらに、日間名は買主より彼のIDカードを受け取ると、端末機に挿入し、売主にさせたのと同じように、テンキーボードに買主の登録番号を入力させた。「はい、次は担保権者の福博銀行へアクセスします。」

 福博銀行から情報が画面に表れた。

「2,300万円の返済となっていますが売主さん間違いありませんか。」

 日間名は売主に確認をして、一旦保留のキーをたたいた。

 次に、彼は買主の融資銀行である丸菱銀行ヘアクセスをした。

「融資金3,000万円となっていますね。根抵当権で3,600万円の設定です。あとの不足金と登記料その他諸経費は、あなたの口座から振り替えますが、いいですね。」

 日間名は買主の了解を取り、秘書にその振替の手続きを命じた。

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