「お早うございます」

 御世話不動産の社長であった。見ると彼の後ろには60年配の女性が居た。

「先生、この方が先日電話でお話しました売主の倉井さんです」

 御世話不動産の社長は、売主の女性を紹介しながら話を続けた。「小金建設の社長も、もうじき見えると思いますので、先に売主さんの手続の方をお願い出来ませんか」

 今日は、得意先の小金建設の社長より頼まれていた不動産取引の事前手続きの日である。

 売主の自宅が火事に遭い、権利書を焼失したので保証書で登記手続をして欲しいと頼まれていたのである。

 日間名は2人をソファーに腰掛けさせ、自身も対面の椅子に腰掛けながら目の前の女性に質問した。

「火事に遭われたとか、大変でしたね…。それで、権利書は焼失したんですね?」

 倉井という売主は「はい」と控え目に返事をしながら領いた。

「私は倉井さんとは初対面ですから、何かあなた自身の身分を証明する物を持って来られましたか?」

 日間名の問い掛けに、その売主はあまり高価そうではない物入れから健康保険証といくつかの銀行と農協の預金通帳を取り出した。

 さらに、消防署発行の被災証明書もテーブルの上に置いた。

 
家
 

「先生、今度売却する倉井さんのアパートは以前から私が管理をしている物件なんですよ。ですから全く間違いなどありませんから、安心して保証書を作って下さい」

 御世話不動産の社長は、自信たっぷりに言った。日間名は御世話不動産とは以前から面識がある。つい最近も別の取引で立会ったばかりである。

 今回の売主の倉井という女性は、運転免許証も、パスポートも持ってはいないが、話の状況からして間違いはないようである。たた、どことなく暗い影があるような感じがするのが気にはなった。

「ヤア…。遅くなりました」小金建設社長の小金溜造が勢いよくドアを開けて入って来た。

「小金社長、売主さんの手続きはだいたい終わりました。今度はあなたの印鑑を頂きたいのですが」

 日間名の要請に小金社長は徐に手にしているカバンの中から、会社の横判と実印を取り出して日間名に手渡した。日間名は一連の手続を終えると、全員にこれからの保証書の手続と、仕組を説明した。

 最終決済は事前通知ハガキが届いているであろう10日後に融資銀行である城南銀行のT町支店で行うことが決まった。

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