仕事中 決済できません
 

筑紫支部 水野 清   

 「おい、田中君。すまないが早速この土地の謄本を取りに行ってくれ。」

 日間名司法書士はファックスにより送られてきた売買契約書のコピーを補助者の田中に渡し命じた。

 田中は命じられるままK市の東部にある管轄法務局まで車を走らせた。日間名事務所から車で15分位のところにあるその法務局は司法書士や土地家屋調査士事務所の人達、又近頃では一般の人達もひっきりなしに訪れるので、普段でもあまり広くないスペースが殊更狭く感じられるのであった。

 補助者の田中は謄本が出来上がる迄30分程待たされた後急いでそれを事務所に持ち帰った。

<所有者は佐木野明人か、何々抵当権も全部抹消されているな>

 日間名司法書士は田中が取ってきた登記簿謄本を一瞥し、必要書類の作成を彼ら補助者に命じた。

 懇意にしている満腹不動産の依頼によるこの取引の決済は2日後の月末ということであった。

 満腹不動産は買主側の仲介業者であり、売主側とは全く馴染の無い初めての取引なので特に注意をしてくれと日間名は頼まれていたが、謄本を見るかぎりはこれといって問題がある様には思えなかった。ただその謄本が醸し出す様相が何かしらいつもとは違うような気がしないでも無かったが、それがどういう理由からなのか深く考えはしなかった。

 今日は朝から立て続けに電話が鳴っている。月末の大安ともなると司法書士事務所は殊更忙しくなるのであった。満腹不動産から頼まれた取引も今日の10時から事務所で行われるのである。

「先生、今日の分謄本を取ってきました。」

 補助者の田中が法務局から帰ってくるなりその謄本を差し出した。

<別に変更は無いみたいだな…>

 日間名は差し出された謄本に目を落とし、表題部、甲区、乙区欄と順次ページをめくっていった。

 彼は、初めてこの謄本を見た時と同じような違和感を覚えたが、それがどういう理由によるものなのかまだはっきりと分からなかった。

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