「その仮差押は誰が付けたのか分からないのですか?」

 御世話不動産の社長が日間名に尋ねた。

「はい。何せ、まだ仮差押の登記が終わっている訳ではなくて、現在登記中ですから分からないんです」

「倉井さん。ひょっとしたら、あなたの義理の息子さんかも知れませんね」

 御世話不動産は、今度は売主の倉井に向って同意を求めるように言った。倉井の話すところによると、亡夫の連れ子との間に金銭を巡るトラブルがあって、現在揉めている最中だとのことである。

「何れにしましても、こういう状況ですので今日決済をする訳には行きません」

「先生、どうしたらいいのでしょうか?」

 御世話不動産に尋ねられて、日間名はしばし考えた後、難しい顔をして言った。

「どうでしょう。昔さんさえよろしかったら、今日の保証書はそのまま手続を進めて、仮差押えが付いたまま買主さん名義にします。その後、売主さんは仮差押債権者の息子さんと話し合われて仮差押を取り下げて貰って下さい。そして、仮差押の登記が抹消されたところで、再度皆さんに集まって預き、残金の決済をするということにしてはどうでしょうか」

 日間名の話に耳を傾けていた御世話不動産の社長が、今度は小声で倉井と相談している。

「先生、私の方はそれで構いません」小金社長の方はどうしても話を纏めたい意向なのだろう、何の異存もないようである。

「それでは先生、そのようにお願いします」御世話不動産の社長と相談していた倉井も同意した。

 
 
 

 3週間後、仮差押の登記は抹消され、件の取引は全て何の問題もなく決済された。

「先生、今回の取引ではいろいろと助けて頂いて有難うございました」

 小金社長は、無事に何の損害も無く取引が終了したので、そのように言ったのであろうが、日間名にとっては何よりも嬉しい言葉であった。

「ナイスバーディー!!」日間名にとって今日2つ目のバーディーである。一方萩原は益々意気消沈している。ゴルフは得てして対戦相手の方の調子が良くなると、他方が悪くなるという、心理的な要因が大きいスポーツである。お互いがライバルで、なおかつ、自分の方が腕が良いと思っている場合などは、特にその傾向があるようだ。

<今日は旨い酒が飲めるぞ…>

 いよいよ最終18番ミドルホール。日間名は難無くツーオンに成功している。後はパターでカップに入れさえすればいいのだ。

 久しぶりに味わう充実感と、征服感、それに何よりも勝負に勝ったという優越感。さらにチョット対戦相手に同情する余裕が日間名自身にあることを感じて、それが又快感となるのであった。

5/5

 
 
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