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[2014.12.26]
特定秘密保護法施行に反対する声明


 
  特定秘密保護法施行に反対する声明  

 
 


                  2014(平成26年)12月26日
                    福岡県司法書士会            
                    会  長   大 部   孝

本法律は、日本国憲法の基本原理である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義に反する恐れが極めて強く、さらに三権分立、罪刑法定主義等の日本国憲法の理念や規定に照らし、これらに抵触する恐れがあることから、当会では、昨年12月に法案制定について、広く国民の意見を聞くなど慎重な審議を求めて声明を公表した(「特定秘密の保護に関する法律案」に反対する声明)。
しかし、慎重な審議が不十分のまま、本年12月10日に本法律が施行された事に対し、改めて遺憾の意を表するとともに以下のとおり意見を述べる。

1.立法事実が希薄であり重罰過ぎる
 特定秘密の保護に関する法律(以下「本法」という。)は、そもそも立法事実が極めて少ないにもかかわらず、厳罰をもって漏洩行為のみならず取得行為をも禁止する。防衛秘密漏洩事件は僅少であり、起訴された事案も数件であり本法で重罰を科す必要性は薄弱である。

2.国民主権原理に反する懸念がある
 市民運動を行っている国民が国の秘密情報にアクセスする行為が処罰され、また、報道機関が「不当な方法」でこれにアクセスする行為につき犯罪として処罰される。さらに知り得た情報を一般に公開することをも犯罪として重罰を課すことにより、秘密情報へのアクセスを萎縮させ、知る権利の衰退、ひいては表現の自由を萎縮させる懸念がある。
 一方、運用基準に則ったとしても、政府にとって都合の悪い情報が永久に国民から隠される懸念がある。行政が保有する情報は全て主権者である国民の共有財産であり、国民が主権者として役割を全うするためには、何よりも国政に関する充分な情報を必要とすることは論を待たない。一定の期間経過後は、すべて公開し、後世の検証を受ける必要がある。
 本法は、この国民主権原理を蔑ろにするものであり到底容認できない。

3.三権分立の原則に反する懸念がある
 本法の運用基準においても、行政機関の長等が殆ど恣意的に特定秘密として指定することができること。しかも指定したこと自体が秘密になる恐れが大きい。また、行政機関の長が、国会議員や裁判官に対して特定秘密の公開を拒否することができるとされており、これは行政が国会及び司法の二権に優越することになり三権分立の原則に反するものである。

4.罪刑法定主義に反する危険性がある
 特定秘密とされる事項は、防衛、外交、特定有害活動の防止、テロリズムの防止とされ、その内容が羅列されているが、曖昧な表現が多用され、しかも行政機関の長等が指定した秘密自体が秘密であるが故に、どのような行為が犯罪となるか不明確であり、罪刑法定主義に反する危険性がある。
 刑事裁判においては、どういう秘密に対して犯罪を犯したのか被告人や弁護人が分からないままに、また反論できず裁判が終了する可能性があり納得出来る裁判となり得ない。施行されるとした場合でも裁判官のインカメラによる審理を採用するなど、適正な手続の下に裁判を受ける権利が保障される必要がある。

5.適正評価のプライバシー侵害の危険性がある
 特定秘密の取扱者に対しては、適正評価を実施するとしているが、経済状態、飲酒や精神疾患等その内容は広範囲に亘り、その者に限らずその配偶者、同居者、親族も、本人に比べ範囲は限られるものの、情報が収集されることになり、プライバシー侵害の危険性がある。
 さらに、本法では、適正評価を受ける者は実施に同意しないことが出来るが、拒否した場合の業務環境での不利益が予想され、事実上、拒否できないことは容易に推定できる。

6.監視機関のチェック機能は期待できない
 特定秘密の指定解除等の運用上のチェック機関につき、両議院に情報監視審査会が設けられたものの構成員は僅か8名であり、しかも政党の議席数割で選任されることから殆どが与党議員となる可能性が大きく、また、行政機関の長の多くは同僚与党議員が予想され同審査会のチェック機能が働くのか疑問が残る。
さらに、特定秘密を知り得た審査会の議員は、特定秘密の問題点を審査会以外の同僚議員と討論することや公表することも禁止され、国民の前に晒されることなく秘密裏に処理されていくこととなる。
内閣保全監視委員会や内閣府独立公文書管理監の設置についても、統括するのが首相であり、情報保全諮問会議については、その構成員が第三者的な立場から選任される機関ではあるが、その権限は意見を述べる権限に限定されており、こうした機構の下で、これらの機関が適切なチェック機能を果たせるか疑問である。
 施行にあたり、独立した第三者の監視機関の設置が必須であり、現状での監視機関のチェック機能は期待出来ないと言わざるを得ない。

7.情報公開法、公文書管理法の充実こそ急務である
 秘密の保全は、国民の知る権利を重罰により押さえ込むのではなく、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)や公文書等の監理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)等の適正運用によって行うべきである。そのような視点から、情報公開法と公文書管理法には、次のとおり改善すべき点がある。
 情報公開法5条(不開示規定)の3号及び4号の「行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある」との文言は行政機関の長の恣意的判断で行う危険があるのでこれを削除し、1号及び2号等と同じように客観的要件とすべきである。
 更に、8条(存否応答拒否)は、事実上、開示を拒否する規定として機能している恐れが強く、削除するか要件を緩和すべきである。
 また、公文書管理法についても、3条(適用除外規定)の「他の法律又はこれに基づく命令に特別な定めがある場合を除く」の規定に基づき大量の防衛秘密が廃棄処分されている。この規定は削除して、全ての行政文書を同法の適用対象とすることを法律本体において明定すべきである。
 更に、米国の「情報安全保障監督局」やフランスのアーキビスト制のような、各省庁が決めた「廃棄」の可否を審査する独立機関を設置すべきである。

                            以  上
 

 

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