[2024/02/26]
意思決定支援シンポジウムパネルディスカッションレポート
意思決定支援シンポジウムパネルディスカッションレポート
令和4年3月18日、『後見事務における意思決定支援〜「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」の実務への定着を目指して〜』と題した『意思決定支援シンポジウム』が、公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポートが主催となって開催されました。この度、本シンポジウム内のパネルディスカッションをオンデマンド動画にて視聴いたしましたので、そのご報告をします。
本シンポジウム内のパネルディスカッションについてご報告をします。
まず、本パネルディスカッションに登壇された方とその役割をご紹介します。
パネリスト
住田敦子 氏(特定非営利活動法人尾張東部権利擁護支援センター長)
西尾史恵 氏(弁護士)
星野美子 氏(認定社会福祉士)
岸川久美子 氏(司法書士)
アドバイザー
水島俊彦 氏(弁護士)
コーディネーター
西川浩之 氏(司法書士)
本パネルディスカッションは、意思決定支援の具体例の紹介も兼ねた住田氏からの事例発表に始まり、以下7つのテーマにてディスカッションが進んでいきました。
①意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン(以下、単に「ガイドライン」と記載する)の評価について
②ガイドラインの重要ポイントについて
③ガイドラインに沿った後見事務の実践について
④意思を被後見人本人から引き出す工夫について
⑤意思決定支援を実践した結果、被後見人本人が実現不可能または困難な選択をした場合の対応について
⑥意思決定支援における注意点について
⑦ガイドラインの活用・定着に必要なことについて
以下、各パートの内容について、特に印象に残った発言を中心にご報告します。
【住田氏からの事例紹介】
各登壇者の簡単な紹介の後、まずは意思決定支援の実務をイメージし易くなるよう、住田氏より具体的な事例を用いた意思決定支援実務の紹介がありました。事例の内容は、障害福祉サービスを利用している50歳男性の後見事案で、母親と2人で生活していたが母親が高齢となり認知症が発症したために、2人での生活が困難となり首長申立により後見人が選任されたという内容でした。後見人が代わりに決めるのではなく、本人と一緒に今後の生活について決めていくというガイドラインに沿った後見事務のプロセスをご説明いただき、ガイドラインが後見実務にどう反映されるかをイメージするのに大変役立ちました。
【①意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインの評価について】
本テーマでは、星野氏より「ガイドラインに沿った後見事務は新しいことをやっている訳ではなく、今までやっていたことをやっているに過ぎない。ただ、果たしてこれだけのことをやっていたのかという振り返りに繋げることができる点で、高く評価している。」との意見が述べられました。
【②ガイドラインの重要ポイントについて】
続いて、上記②のテーマに移り、住田氏より「今まで本人が自分で決めることができないから後見人が付くと考えられていたことが多い中、ガイドラインは本人に決める力がある=本人を権利関係の主体と位置付けていることが、ガイドラインの中でも重要な点である。」との意見が述べられました。
【③ガイドラインに沿った後見事務の実践について】
続く上記③のテーマでは、西尾氏より「ガイドラインは、全部覚えてその通りにするというものではなく、ガイドラインそのものの考え方を学んでいただき、それを参考に事務を実践することが良いと考える。」との意見が述べられました。
【④意思を被後見人本人から引き出す工夫について】
続く上記④のテーマでは、星野氏より「意思決定支援を行うチームメンバーの中に本人を加え、課題を抱える本人をチームメンバーで支えるのではなく、本人と一体となり課題を検討することで意思を引き出せるのではないかと考える。」との意見が述べられました。
【⑤意思決定支援を実践した結果、被後見人本人が実現不可能または困難な選択をした場合の対応について】
続く上記⑤のテーマでは、岸川氏より、自宅と墓があれば他の財産は全て別の相続人に渡したいという意向がある本人の具体的な事案を交え、「後見人としては法定相続分を確保するという考え方があるが、本人がその選択をした方が健やかに生活できると判断した場合は、必ずしも法定相続分を確保する必要はない。」との意見が述べられました。
【⑥意思決定支援における注意点について】
続く上記⑥のテーマでは、住田氏より、詐欺被害に遭っている本人が詐欺を行っている相手方のことを信じ切っているという具体例を提示され、「本人の意思を尊重するために本人の言う通りするというばかりではなく、本人保護の観点も鑑みて支援していく必要がある。」との意見が述べられました。
【⑦ガイドラインの活用・定着に必要なことについて】
そして最後の上記⑦のテーマでは、西尾氏より「弁護士の中でも実際に読んだことがあるという人はかなり少ないという現状。岡山家庭裁判所では、アセスメントシート(※アセスメントシートについては、ガイドラインをご参照ください。)を定期報告時に提出することで付加報酬が認められるケースもあり、行った後見事務に評価を受けることは後見人自身のモチベーションにも繋がる。リーガルサポート等の専門職団体と家庭裁判所とで一体となり研修や意見交換を行い、意思決定支援を行うことに対して評価していただくことが必要ではないか。」との意見が述べられました。
以上、パネルディスカッションにおける各登壇者の意見をご紹介いたしました。上記7つのテーマにおいて特に印象深かったのは、⑦ガイドラインの活用・定着に必要なことについてのディスカッションでした。ガイドラインの存在を知っている方はそれなりにいても、中身を理解している方は少ないというのは私自身も含め司法書士も該当すると感じました。今後行われる意思決定支援の研修の受講や自身での内容の確認などを通し、ガイドラインへの理解を深めることで、後見事務の質の向上に繋げていこうと思います。