りーがるーブログ

[2024/06/10] イベント報告

令和5年度権利擁護支援シンポジウム パネルディスカッションレポート

 令和5年度権利擁護支援シンポジウムからパネルディスカッションの模様をダイジェストでお伝えします。
 
 パネリストはそれぞれ釧路市(北海道)、坂出市(香川県)、八尾市(大阪府)で市民後見に携わってこられた3名の方々です。それぞれのお立場で地域の市民後見人がどのように活躍しておられるか、それをサポートするために行政や社協(社会福祉協議会)がどのようにサポートしているかをお話ししてくださいました。
 
 まずは釧路市権利擁護成年後見センター 副センター長の新田氏より、釧路市の実情についてご説明がありました。釧路市では市民後見人が就任する場合、必ず複数後見にしているそうです。初めて業務を行う方であっても、ベテランの市民後見人とコンビを組むことで、不安を軽くすることができると言います。
 また、選任・登記は複数名でされるけれども、後見人間で身上監護と財産管理とそれぞれ役割ごとに担当する、或いは最初の2年はA後見人が担当、その次の2年はB後見人が担当し、またその次の2年間はA後見人が、と時間軸で分けて担当するケースもあるとのことでした。
 他方、坂出市成年後見センター専門員の松原氏は、坂出市では原則は単独後見で、受任調整会議で相当とされた場合のみ複数後見で行っているとのことで、自治体間でも運用が大きく違うことが分かりました。
 
 複数後見人の課題として挙げられたのは情報共有のタイムラグなどどうしても迅速性を欠くこと、それぞれの後見制度に対する考え方や想いが衝突するなど人間関係の問題が出てくることもあることです。実際、ベテランの市民後見人の中には単独後見の方が動きやすいと漏らす方もいらっしゃるそうです。
 一方で一旦複数後見人間にしこりが生じた事案であっても、話し合いを通じて方向性を共有し、「雨降って地固まる」となるケースも見てきたというお話もありました。
 
 市民後見人の方が活躍するための工夫についてのお話もありました。
 まず「養成」の段階ですが、八尾市健康福祉部次長の岡本氏は市区町村と府の役割分担について説明してくださいました。それによりますと大阪府では人材の育成については府、受任調整やサポートについては市区町村が担当するそうです。
 そうすることで役割分担が明確になり、リソースの少ない市町村に居住の方であっても講座を受講することが出来るようになります。また、講座の内容については以前から三士会(司法書士、弁護士、社会福祉士)の力を借りて、意思決定支援に力を入れたカリキュラムを組んでいるとのことでした
 釧路市では遠隔地の方も受講できるよう一部オンラインで実施し、ロールプレイを通じた意思決定支援を学んで頂いているそうです。そうして毎回20名程度の受講者から8割程度は市民後見人バンクに登録しているとのことでした 。
 坂出市では講座は公募ではなく、福祉経験者を一本釣りして受講してもらっているが、今後は公募も検討しているとのことでした。
 
 次に「支援」の段階で三市に共通だったのが、市民後見人と行政、社協、あるいは三士会や家庭裁判所といったそれぞれのプレイヤー間での関係作りに心を砕いている様子です。
 実際に市民後見人をなさっている方の実体験を聞いてもらって具体的にイメージを持ってもらうこと、市民後見人の方が社協にいらした際にはあいさつなどの声かけをして談できる関係を維持すること、家庭裁判所と市民後見人それぞれの見えている風景を共有することで就任後の「こんなはずじゃなかった」を解消すること、あるいは市民後見人が勇み足を踏みそうなときには相談に司法書士等の専門職に同席してもらいブレーキ役になってもらうことなど、様々な工夫が聞かれました。
 また、八尾市では市民後見人エコバッグを作る、釧路市では劇団を作って広報活動にいそしむなど、一体感や楽しみを作り出そうという姿勢を取っておられました。
 
 登壇者の一人は「市民後見人の良さは何なのか」という点について、「これを知っとかないといけません」、「この知識も必要です」と専門職と同じ知識を詰め込むことが良いことなのか疑問に思う、と話されました。
 そして、「市民後見人の良さ」は専門職とは別のところにあり、それを支え、時に行きすぎをいさめるのが専門職や行政、社協等チームの役割なのではないかと主張されます。
 また、別の登壇者は配偶者である専門職(社会福祉士)の後見事案での対応に、「それは冷たくないか」と述べたところ、「あなたは一件しか後見事件を抱えていないが、自分は多数の事件を抱えている」と、同じ視点で事件に関われるわけではないと反論されたというエピソードを披露されました。
 
 親族ほど近すぎず、専門職よりも身近な「ほどよい距離感」が市民後見人の良さではないかというのがある程度の共通な認識としてありました。
 市民後見人の中には厚意から被後見人の為に様々な事を「してあげたい」と思う方がいらっしゃると言います。しかし、嗜好品をポケットマネーで買って持参するなどであればまだしも、身体介助を行ったり、ご本人を自身の運転する車に乗せて、食事や行楽に連れて行ってしまうなどは、後見人として非常にリスクが高く、そうした部分については行政としても注意喚起をしているということでした。
 
 今後の市民後見人の在り方について、まずは現在の課題として自治体間の意識の差が大きいこと、地域によっては原則無償としていることも善し悪しあること、市民後見人自体が高齢化していることなどが挙げられました。
 今後は市民後見人という制度を地域の重層的支援の一つとして捉えること、より若い世代にアピールしていくこと、ボランタリー(自主性に基づく活動)として、個人の仕事や生計のためではなく、社会参画、社会貢献の方法の一つとして位置づけることを目指したいという声が上がりました。
 
 八尾市の岡本氏は市民後見人に自身の活動を記録として残してもらうようお願いしており、それを読ませて頂く機会もあるそうです。そのたびに一人の人生に寄り添う立場としての市民後見人の活動に感動していると話します。
 最後にリーガルサポート(LS)は市民後見人講座向けの教材を作成されているのだから、再現ドラマみたいなのを作って広報してくれるとうれしいな、とLSに無茶振りがされ、壇上が笑いに包まれる中パネルディスカッションは終了しました。
 
 ダイジェストでは取り上げませんでしたが、特に地方で専門職後見人が枯渇しつつあるあるいは枯渇する恐れがあるという発言もありました。市民後見人の必要性が高まっていくという意見には大いに頷けるところです。
 一方で育生や社会への周知、定着にはまだまだ高いハードルがあるという印象も受けます。(市民)後見人としての活動が社会貢献に繋がるというのは納得 できますが、社会貢献等は一般に「余暇」に行うものである以上、実質賃金が右肩下がりの社会、副業を推奨するような風潮もあるで、どれだけ若い世代に訴求するか、個人的には悲観的です。
 登壇者のお一人が、市民後見人の報酬を原則無償としている地域もあることについて疑問を呈しておられましたが、私も若い世代に責任を持って参画してもらうには正当な対価を提供する必要があると考えました。
 
 いずれにせよ市民後見人という制度はまだ生成途上のものです。拙文をお読み頂いた方にも是非、市民後見人を始めとした社会の重層的支援体制、そのあるべき制度設計について思いを致していただけると幸いです。
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