りーがるーブログ

[2024/06/24] イベント報告

四国ブロック研究大会基調講演第2分科会レポート

 令和6年4月20日(土)午後1時から、(公社)成年後見センター・リーガルサポートの四国ブロック研究大会が松山市総合コミュニティセンターにて開催されました。
 このレポートでは、高知支部が担当した第2分科会「専門職後見人と震災対応~どう備えるべきか・どう行動すべきか~」をテーマとする基調講演及びパネルディスカッションの内容を報告します。

 第1部の基調講演では、東日本大震災当時、福島県司法書士会会長であった髙橋文郎氏が登壇され、「東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故から13年を振り返る~その時司法書士は、司法書士会はどうしたのか?~」をテーマとして、震災時のリアルな対応をお話されました。本レポートでは、特に印象に残った、震災直後の初動の部分を中心に紹介します。
 震度6強の地震が福島を揺らしたとき、高橋氏は車の運転中だったそうです。地震の揺れが落ち着くと、すぐに、福島県司法書士会館職員や事務所職員、家族の無事を確認したそうです。その際非常に重要だと感じたのは、人との連絡手段ということでした。当時はLINEが普及しておらず、ほぼ携帯電話のみで連絡を取っていましたが全く繋がらなかったとのことで、LINEがあればまた違う対応を取れたかもしれないと強く感じたとのことです。
 その後、高橋氏は、ほぼ会長の単独決済で災害対策本部を立ち上げました。まずは会員全員の安否確認を行いました。会員の安否を行い、福島の全会員ができるだけ早く業務に戻れるようにする。その先に被災者の支援活動があるとの認識でした。幸い、福島県の会員(当時279名)は一人も命を落とすことはありませんでしたが、全員の安否が確認できるまで1か月を要したとのことです。
 福島には原子力発電所があり、原子力発電所が爆発した際、福島県民全員が避難しなければならない雰囲気になったそうです。しかし髙橋氏は、会員の拠り所は司法書士会館であると考え、災害対策本部の場所を会館としました。福島に残り仕事を続けたことは、会長としての責任と、家族の中で夫として、父としての責任を感じ、福島に残ってくれた家族に何かあったら自分の責任だと、重いものを感じながら生きていたとのことです。当時は会長の仕事を優先していたため、事務所の所長としての仕事はほとんどできず、手弁当のときもあり、職員に苦労をさせてしまったことも話されました。しかし、目の前に助けを求める方がいれば手を差し伸べる、何かあれば話を聞きに行く、それは皆さん同じはずだと、髙橋氏は話しました。
 震災以降は、通常の後見業務でさえ満足に行うことができなかったそうです。銀行、ATMは閉鎖しているため記帳ができません。度重なる避難所の移動により、成年被後見人の生活拠点が定まりません。ガソリンの購入は量が制限されているため、車移動が十分にできず、面会も儘なりません。福島の場合、原発事故による立ち入り規制で、不動産の管理もできません。もし成年被後見人が亡くなられても、お寺も被災しているため、納骨もできません。通常では考えられない困難に苦労し、そのたびに日ごろのご近所・地域とのネットワーク、親族との連携が大事であると感じたとのことです。
 高橋氏は日頃からしておくべき震災対応として、次の3つを挙げました。1つ目は、ハザードマップを確認して、ご本人さんが住む地域がどのような環境かを確認しておくこと。2つ目は、施設に入所している場合は、その施設の被災時の避難行動計画を確認しておくこと。3つ目は、在宅の場合は、ご近所の方や家族との信頼関係がいざという時に非常に心強いこと、です。
 震災から13年経った今、復興は確かに進み、被災した土地は綺麗に整備されています。しかし、大切な人を亡くし、心の傷を癒せない被災者はまだいて、復興から取り残された人もいます。そういった方々に寄り添い、後見業務、司法書士業務を続けていきたい。高橋氏の言葉と共に、第1部は終了しました。

 第2部のパネルディスカッションでは、パネリストとして、第1部基調講演でお話された髙橋文郎氏、公益社団法人認知症の人と家族の会会員 小野寺彦宏氏、社会福祉法人高知県社会福祉協議会 地域支援グループ長 高知県ボランティア・NPOセンター所長 間章氏が登壇され、当法人常任理事山口浩志氏がコーディネーターとなりました。
 パネルディスカッションでは、在宅独居の成年被後見人がいるという事案を想定し、その震災対応をテーマに議論を行いました。議論は、地震発生前をフェーズ1、地震発生から1週間程度をフェーズ2、地震発生から1週間経過以降をフェーズ3と、3つの期間に分けて行いました。それぞれのフェーズで印象に残った部分をご報告します。
 フェーズ1では、地震発生前の地震に対する認識や対策状況、高知県での準備状況について議論を行いました。高橋氏は、地震に対する想定は全くなく、リーガルサポート福島としての対策は不十分で反省すべき点だと話しました。小野寺氏も、地震の想定は全くしていなかったとのことでしたが、一方、地域の特性上、地震が発生したら津波が来るという認識はあったそうです。そこで、町内会では、専門分野ごとに7~8つの班を作り、その中に、津波が来たら認知症の方・障がいを持った方と一緒に逃げる班を決めていたとのことです。間氏は、高知県の社会福祉協議会の取組みとして、最近は地域共生社会の実現に向けた包括的な支援体制の構築に力を入れているとお話されました。地域の住民や福祉団体が連携し、有事の際に支えあえる体制づくりの取組みを進めているとのことです。
 フェーズ2では、地震発生直後の自宅の様子や自身の業務に関して議論を行いました。髙橋氏の自宅及び事務所は、何とか倒壊を免れたとのことでしたが、生活面や業務で最も困ったのは、水・食料の不足だったそうです。司法書士としての自らの業務、会長としての業務の傍ら、家族のために、食料探しも必死になって行ったとお話されました。小野寺氏は、認知症の人との避難方法について触れました。当時デイサービスを利用していた人は、スタッフの人と共に避難所に移ったため助かったが、家族は認知症の家族を家で待っていたために、津波に流されてしまったとのことで、これは今後の避難行動の参考にしなければならないとお話されました。間氏は、認知症の方の避難について社会福祉協議会の取組みをお話されました。まず、認知症の方は通常の避難所では福祉サービスの不足が生じるため、福祉避難所や病院への避難を進めていくとのことです。また、DWAT(災害派遣福祉チーム)の業務を、高知県社会福祉協議会は高知県から委託されています。このDWATとは、大規模災害発生時に、避難所等で専門知識を活かして、高齢者や障がいを持つ方を支援するチームのことです。間氏は、DWATの支援が入る際、もし在宅の成年被後見人であれば成年後見人との連絡が必要なので、何らかの形で連絡を取れることが必要だとお話されました。
 フェーズ3では、成年被後見人が亡くなった場合について、髙橋氏が話しました。成年被後見人が亡くなったかどうかの判断は、警察の情報や避難所に張り出される情報、ラジオの情報を収集し、慎重に行ったとのことです。本人が亡くなった場合でも、原発事故により立ち入り禁止の地域になれば、長い間火葬ができないこともありました。リーガルサポートとしても初めてのことで、会員同士で情報を交換し、悩みながら業務を行ったとのことです。小野寺氏は、福祉避難所への避難について触れました。当時は、本来福祉避難所となるべき福祉施設が、一般の避難者で満杯になっていたそうです。そこで、複数の県にお願いをする形で、2か月半ほど福祉避難所を運営してもらったとのことです。また、想定事案のような家族とのかかわりが薄い在宅独居の認知症の方は、ほとんど老人ホームに入所することになったと、小野寺氏は話しました。間氏は、フェーズ3の段階での高知県社会福祉協議会の取り組みについて話しました。社会福祉協議会としては、被災者の支援業務を様々な形で進める段階とし、災害ボランティアセンターの設置準備、福祉避難所の開設、通常の避難所にいる方や自宅にいる方への早急な福祉サービスの提供に取り組むとのことです。1週間経過後から、行政から様々な支援制度が開始します。そのような支援制度の申請が遅れると普通の暮らしに戻るのも遅れるため、成年後見人と社会福祉協議会との連携はかなり大事だと間氏は話しました。また、支援制度があっても、多くの人が知らなかったり、遠慮して使わない人もいるとのことで、被災者の困っていることを把握できないことも多いそうです。そのような人たちにも支援を繋げなければなりませんが、成年後見人がいる場合は、困っていることを後見人を介して聞きやすいので、支援が入りやすいのではないかと間氏は考えているとのことです。
 最後に、3つのフェーズの議論を通して、まとめの議論を行いました。髙橋氏は、後見業務の備えとして、データのバックアップの大切さを話しました。また、在宅の方は、お薬手帳が意外にも重要だったとのことです。小野寺氏は災害対策のポイントを挙げました。認知症の方に災害対策を伝えることは難しいため、町内会といった地域で、認知症の方と共に避難する担当を決め、訓練しておくことが大事とのことです。間氏は災害対策の課題を話しました。それは、災害が起こる前に、地域と、福祉と、人と、どのような繋がりを作っておくか、ということです。災害が起きたとき、たとえば司法書士が遠くにいてすぐに助けられなくても、繋がりさえあれば地域の民生委員や近所の方が支援することができます。また、福祉教育も大事とのことです。認知症といった福祉サービスを受ける方に対する偏見もあり、地域の中で孤立しやすいが、少しの配慮で地域でも安全に暮らせることを住民に伝えていく取組みは大事だと、間氏は話しました。

 福岡でも2005年に西方沖地震が発生しましたが、恥ずかしながら私は、本研究大会を経てはじめて福祉避難所やDMATのことを知りました。また、日ごろの災害への備え・対策が十分かと問われれば、間違いなく不十分な状態だと言えます。日本に住んでいる以上、いつ、どこで地震が起きるか分かりません。そのときに、自分の身を守り、家族を守り、そして、成年被後見人の方々を守るためにも、日ごろの備えや最新の知識が非常に重要だと感じました。

 
  • 行政・福祉関係の職員のみなさまへ無料同行訪問相談のご案内
  • 会員名簿
  • りーがるーの部屋
  • 私たちができること
  • 無料電話相談 お問い合わせはお気軽に 092-738-7050
    受付時間
    月曜日~金曜日13:00~15:00
    祝祭日、年末年始、盆休日を除く
  • 有料面接相談 お電話でのご予約 092-738-1666
    相談時間
    毎週水曜日13:00~15:00のみ
    相談料
    1時間5,000円(税込)
    受付時間
    月曜日~金曜日13:00~16:00 祝祭日、年末年始、盆休日を除く
    メールでの予約申し込み
  • リーガルサポートふくおか

    〒810-0073
    福岡市中央区舞鶴三丁目2番23号
    (司法書士会館内)

  • 福岡県司法書士会

ページの上へ