[2024/07/08]
令和5年度総会前研修 テーマ:事例から学ぶ執務姿勢 レポート
令和5年度総会前研修 テーマ:事例から学ぶ執務姿勢 レポート
リーガルサポートの執務基準である「本人及び周囲の関係者の意見をきき、自らの事務が独善に陥らないようにする」ということを大前提に、総論として3つの主眼があるというお話から始まりました。
その主眼とは、1客観的な公正性の維持 2本人意思の尊重と本人の利益確保 3常に考える癖 です。以上の主眼を念頭に置きつつ、各論として ①申し立て時 ②就任時 ③遂行時 ④終了時のフェーズごとの検討をした後に個別のテーマについて検討をしていくという形でお話が進んでいきました。
【フェーズごとの検討】
①申し立て時 後見申し立ての依頼があったときに、そのまま申し立ててよいのか。後見制度の内容の説明を丁寧にしたか、デメリットの説明もしたか。今すぐに申請しなければならない状態にあるか確認したか。医者の言う通りの類型でよいのか。利益相反の可能性はないか。本人情報の把握はしたかなど、申し立てをする前に立ち止まって考えなければならないポイントについてのお話がありました。
②就任時 財産調査をどこまで行うべきかということや、財産の整理の仕方の他、後見人就任のお知らせをどこまで行うかといった本人のプライバシーの問題もかかわってくる悩ましいところのお話もありました。
③遂行時 身上監護(面会)については、原則として月に一度。本人の状況把握は大切なので、感染症の関係で面会できないときであっても、施設の職員に話をきいたり施設を見に行くだけでも意味がある。また、各種記録の作成については、出納帳と業務日誌の二つだけは必ず作成するべきということでした。それらの記録を作成することで客観性の保持や、提出漏れの予防ができるからです。
また、施設への預け金・本人への預け金については、預ける前のチェックはもちろんのこと預けて終わりではなく、預けた後のチェックやフォローも大切である。本人の居所についても、合理性だけで判断するのではなく、本人の意思や利益を第一に考えて出来るだけの配慮を柔軟に考えることが肝要である。本人の意思を知るためにも、サービス担当者会議や運営推進会議への出席は不可欠である旨のお話もありました。
④終了時 被後見人の死亡により業務が終了した場合において、仮にその相続財産の承継者である法定相続人や受贈者から遺産承継業務(31条業務)を受任した場合であっても、「客観的な公正性」の観点から、一旦は管理計算等を行い、当該承継者に財産を引き渡してから、改めて業務を行うべきことや、相続人調査について戸籍を調べるだけで費用倒れになることが想定される場合などはその旨を裁判所に伝えた上で以後の対応について協議、検討するなど、その時の状況に応じて臨機応変に対応すべきことなどを語られました。
【個別のテーマ】
個別のテーマについては、被後見人所有の不動産の売却にあたり、後見人である司法書士が買主側の登記申請代理人として登記申請することの可否・施設内複数後見受任についての問題点・遺産分割・事務の効率化・親族との関係に至るまで、全部で14個の項目を立てての問題提起や方法論の提言がありました。
中でも不動産の処分に関する項目については、後見人が売り主との間で売買代金を定めたうえで自らが登記申請するとなれば、登記に対する報酬をお手盛りすることも可能となる点で客観的公正性を損なう恐れがあること。更に報酬とは別の視点からも、売り主の後見人が買主の登記申請を代理する点で利益相反関係が潜在しているとのご指摘が印象に残りました。
また、同一の施設内で複数人の後見人となることについては、サービス提供者対サービス利用者(施設対入居者)という利益相反関係が内在しており、かつ入居者同士が揉めた場合にも入居者同士をめぐっての利益相反もありうるという問題提起には、後見業務未経験の筆者にとっては考えてみたこともない事柄で、目から鱗の思いでした。
他にも事実行為の判断については、どうしてもやむを得ない場合もあることは確かであるがその「どこまでをやむを得ないとするのかの判断」が大切であることや、遺産分割の紛争に巻き込まれそうなときには自分では判断せずに家裁と協議して保留するという方法もあるといった提言がありました。
本日の講演に終始一貫して流れていたものは、初めのお話のとおり3つの主眼「客観性と公正性」「本人意思の尊重」「常に考える癖をつける」でした。
たとえば、被後見人の預金を引き出したとき、後見人自身から見れば全部必要経費と思っていても、その経費の中身が明らかにされていなければ第三者から見たときには使途不明金に見える。中身を明らかにするために、お金の用途を通帳に書き込んでおくなどひと手間をかけておくと誤解を避けることができるという実務の話や、上記の不動産売買の話などから、後見等業務は全ての事柄について客観性と公正性がいかに大切であるかが分かりました。
また、本人はほとんど自宅で過ごすことはないが、週二回娘と二人で過ごすことを楽しみにしている本人のために自宅は売却せずに温存しているといった実例の話では、業務の中で判断に迷うときの重要な指針となるのは本人の意思と本人の利益であることが理解できました。と同時に後見人には、本人が元気であったらどうしたかを考えるための材料となる「情報の収集力」や、「人の立場に立って考えることのできる想像力」といった能力も求められるのだと考えさせられました。
なかでも、森部講師が一番強調していらっしゃったのは、常に自分の頭で考える癖をつけるということだったように思います。「自分は間違っていないという自負があると検討すべき場面にすら気が付かない、これが一番問題だ」というお話から、常に外部からの目線を意識した客観性と公正性を保持し、情報を収集し、想像力を働かせて自分の頭で考えているか、自分を振り返ってチェックする事を怠ってはならないと思いました。
いずれをとっても森部講師の豊富な経験・知識・思慮を基にした事例を挙げての説明で、これから後見等業務に関わろうとしている筆者にとっての至言がちりばめられている講演でした。