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[2024/08/23] イベント報告

四国ブロック研究大会 第3分科会 「監督機能から考える任意後見契約~安全性と制度普及との調和に向けて

四国ブロック研究大会 第3分科会
「監督機能から考える任意後見契約~安全性と制度普及との調和に向けて」レポート(前編)

 
 令和6年4月20日(土)13時より松山市総合コミュニティセンターにおいて四国ブロック研究大会が開催され、その様子は同時にリアルタイム配信されました。私は、リアルタイム配信で、4つの分科会のうち第3分科会「監督機能から考える任意後見契約~安全性と制度普及との調和に向けて」を受講致しました。
 令和4年3月に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画では、優先して取り組む事項として「任意後見制度の利用促進」があげられています。
また、成年後見制度に関する法改正の動きの中で、任意後見制度についても改正に向けた議論が進められています。
 本分科会では、任意後見契約を希望する人が、過度の負担なく且つ安心して利用するために、どのような運用の改善や法改正が必要であるか、主に「監督機能」に焦点をあて、最新の議論やドイツを中心に諸外国の制度を踏まえつつ検討がなされました。また、会員への任意後見に関するアンケート内容を分析し、業務状況や意識について現状を把握するとともに、我々実務家は、任意後見制度の利用の促進に向けてどのように取り組んでいくべきか、ということを共に考える機会となりました。
 
 第1部では、基調講演「わが国の任意後見制度の特徴と課題について~ドイツとの比較から考える」というテーマで明治学院大学法学部法律学科教授の黒田美亜紀先生がご登壇されました。
 ドイツには厳密には任意後見制度というものが存在せず、わが国の任意後見制度と似ているものとして、民法上の代理制度を活用した、法定後見制度とは別の私的な枠組みとして、「事前配慮代理権制度」があります。この制度を理解するためには法定後見制度である「世話制度」との比較で考える必要があります。1992年に、それまでの行為能力剥奪・制限宣告の制度を廃止し、ここで、現在につながる「世話」に一元化された法定後見の仕組みとして、成年者のための「世話制度」が導入されました。この「世話法」は介護保険の運用を円滑に進めるため、介護保険制度の導入に先立って施行されたもので、この点は、わが国と似ています。世話制度は、援助を必要とする人の自己決定権を尊重しながら、裁判所が精緻に確定した任務範囲内で本人に必要な事務を法的に処理する世話人の支援を受けることができる制度です。この「法的世話」は、介護等の事実上の世話や面倒見とは区別され、無償で行われるのが原則です。裁判所によって当該世話が職業的になされることが確認された場合にのみ例外的に有償で行われます。
1999年に「世話法」の第一次改正、2005年に第二次世話法の改正、なお、2008年に後見裁判所は廃止され、成年者の世話事件を担当する裁判所の名称として後見裁判所から「世話裁判所」に変更されました。2009年に第3次世話法の改正が行われ、同意能力のある成年者が将来自分の同意能力を失った場合に行われる医療措置について、事前に自分の指示、希望、拒否も含む内容を表明しておく「患者による指示証書」が民法典の中に盛り込まれることとなりました。
2023年の第4次改正では、後見及び世話法の改正に関する法律により、1992年に世話制度を導入して以来の全面的改正があり、未成年者に対する身上保護規定の強化や財産管理規定の現代化、障害者権利条約12条の理念を踏まえ、被世話人の希望の優先を徹底するとともに、国と州が協力して「世話協会」の活動資金の調達を支援強化すること、「世話官庁」による世話裁判所サポートの役割を強化することを狙いとしています。包括的な再編成を行うため、新たに世話組織法を制定し、世話の質を確保するため職業世話人の登録制度を導入し、世話官庁がその責任者とされました。他方で、障害者権利条約12条に配慮して、支援される人の自己決定と自律の強化を狙いとして、必要性の原則を徹底し、世話人には代理権の行使に先立って、「支援」を行うことが義務付けられました。
注目すべき点として、配偶者の相互代理権制度が導入されました。これは、婚姻の一方当事者が、意識不明または疾病により自身の健康配慮の事務を法的に処理できないとき、医的侵襲についての同意や拒否、入院契約等を行うための法定代理権が他方当事者に、法的な手続きを経ずに与えられる6か月限定の緊急の法定代理権です。
ドイツの特徴的な世話を支える民間の組織(社団)として認可された「世話協会」は、2014年当時に連邦全体で約838団体(同年の国からの補助金は619団体で102億8,600ユーロ(≒1兆4,400億円)です。世話協会は、担わされた任務を遂行するために、公的資金により必要な財源支援を受けて活動しています。世話の遂行のほか、名誉職世話人の募集、助言、養成や経験交流などの支援、さらには事前配慮代理権を作成したい人へのアドバイス等多様な役割を担っています。
司法、世話裁判所、世話官庁、行政、世話協会、民間が福祉も含めて連携して本人を支援するために世話制度を運用しています。
 2023年の改正の考え方については、事前配慮代理権制度は世話制度とは別のレベルのものと考えられていますが、最小限の介入や本人の希望を尊重することについては共通であると捉えられています。ドイツでは必要性の原則と補充性の原則が条文上明示されています。世話は本人にとって必要な場合にのみ必要な範囲でのみ認められ、世話の要件が満たされなくなった場合、世話は取り消さなくてはならないとされています。遅くとも7年後には、世話を取り消すか更新するかを判断する必要があります。同意権留保についても同様です。世話以外の支援や信頼する代理人によるサポートで十分な場合、世話人は選任されません。本人が世話人の選任に同意していないのに選任することは、本人に対する侵害と捉えられ、許容されません。
 世話人の選任にあたっては、先ずは本人の希望が優先され、本人の自由な意思に反して、世話人が選任されることはありません。世話人には、本人の希望を確認して、可能な範囲でその希望通りに生活できるよう支援する義務があります。名誉職世話人、職業世話人、個人で引き受けられない事案については世話協会の職員で世話を引き受ける協会世話人、個人や民間で引き受けられない事案については官庁で引き受ける官庁世話人の順番で選任されます。
 
 ここで、ドイツと日本の成年後見制度について比較をしてみます。
 2015年末時点でのドイツの人口は8,179万人。高齢化率21.7%。法定後見「世話制度」の利用件数は127万6,538件(2015年の申立件数20万9,664件)。現在は130万件です。親族世話人は減少傾向にあり、わが国と同じく職業世話人の割合が増加傾向にあります。世話制度を利用できる人は、疾病や障害によって自己の事務の全部または一部を法的に処理することができず、世話を必要としていて、且つ、世話制度の利用に反対していない人。身体障害の場合でも利用できます。ただし身体障害を理由とする場合は、本人の申立てによることが必要とされています。世話人は代理人ですが、被世話人の自立や自己決定を尊重し、障害者権利条約第12条に配慮しながら、先ずは「支援」を行い、その後に代理を考えることが意識されています。2023年の改正では、代理に先立って支援をすることが必須とされています。
 世話制度を利用する際、本人の行為能力は制限されないのが原則です。例外的に本人の身上や財産に差し迫った危険がある場合に、世話裁判所は世話人の職務範囲について例外的に同意権留保を命ずることができ、職務範囲に属する意思表示を本人がするには世話人の同意が必要となります。その部分において本人の行為能力が制限されます。
 選任にあたり、本人が、世話の職務を引き受ける意思がある適切な人を提案した場合は、裁判所はその提案に拘束されます。本人の希望は、その福祉に反しない限り、客観的利益よりも優先されることとなっています。
 2015年末時点での「事前配慮代理権制度」の累計登録件数は303万1,223件で、2023年には610万3,765件と倍以上に増加し、毎年30万~40万件の新規登録があります。民法上の任意代理がベースとなっており監督は想定されていません。8割ぐらいが、患者による指示証書(自分が同意能力を失った状況での医療同意に関する意向を表明しておくこと)と関連付けられていることが調査、統計により判明しています。連邦公証人会による代理権登録簿へ登録の仕組みがありますが、登録は義務ではありません。(オンライン登録が可能)また、世話制度と事前配慮代理権制度を同時に利用することができます
 代理権授与証書の所持者は世話手続きの開始を知った際に世話裁判所に通知する義務があります。任意代理人が本人の希望に添わない行動をしそうな具体的根拠がある場合には監督受託世話人が選任される場合もあります。任意代理人が本人の希望に添わない行動をして本人の身体や財産を重大な危険にさらす窮迫の危険がある場合は、世話裁判所は代理権行使を禁止できます。医療同意、収容。強制的医療措置へ同意するには、書面で明示的に授権されている必要があります。ドイツでは本人の意思が尊重され、監督をきつくしようという議論にはならず、このように改正によって制度の形式が整えられてきました。
 
 日本の成年後見制度について、2015年末時点の日本の人口は1億2,799万人、高齢化率28.1%。法定後見(後見・保佐・補助の3類型)と任意後見があります。
 法定後見の利用者数は18万9,070件(2015年の申立件数3万3,966件)。法定後見人については家庭裁判所が諸般の事情を考慮して選任します。報酬については、成年後見人等からの申立てを受けて裁判所が付与するか否か、また、その額を決定します。
 任意後見契約は公正証書で作成し、登記されます。任意後見人は申立により家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督に服します。任意後見契約の累計登記件数は2015年末時点で12万692件。2022年当時の成年後見制度の利用者数は全体で245,087件、そのうち任意後見の利用件数は2,739件と少なく、この年の任後見契約の締結数は14,730件に比べて、任意後見監督人の選任件数は766件と極めて少ないです。また、法定後見と任意後見を同時に利用することは認められていません
法務省による意識調査の結果から、任意後見制度が正確に理解されないまま契約が締結されていることが読み取れます。任意後見監督人が誰になるか分からない、報酬に抵抗がある等の理由で、任意後見監督人の選任の申立てをしていないという人が多いことも分かります。この調査結果に着目して、黒田氏は、もう少し使いやすい、任意後見制度を考えていく必要があるのではないかと思います。任意後見制度の利用促進に向けては、現行の任意後見制度は、監督が重たい印象があり、そういった部分の改善で、使い勝手の良い任意後見制度に繋がると思います。自己決定を尊重する部分と安全装置としての監督とのバランスをとりながら決めていくことが必要ではないかと思います。また、本人の意思を尊重する観点から、法定後見と任意後見との併存を認めても良いのではないかと思います。
との考えを述べられました。
 
ドイツの成年後見制度については、一人一人の生き方や人生観といった、本人の意思を非常に大切にする国民性があり、「本人の意思を尊重すること」をベースに、司法、世話裁判所、世話官庁、行政、世話協会、民間が福祉も含めて連携して本人を支援するために世話制度を運用していること。行為能力が制限されないこと。法定後見と任意後見の併用が可能であること。遅くとも7年後の世話の取り消し、更新の必要があること等、本当に興味深かったです。特に、任意後見である事前配慮代理権制度の利用件数については610万件以上という日本とは比較にならない程多いこと。これだけドイツ国民に受け入れられている制度から、学べるところは大きいと思いました。
日本でも、第二期成年後見制度利用促進基本計画に基づき「持続可能な権利擁護支援モデル事業」が実施されています。社会全体で課題を共有し、地域全体で繋がり支え合える権利擁護支援の地域連携ネットワークの体制づくりが広がっていくこと。そして、任意後見制度については、重装備過ぎる監督機能をもっと軽くした、必要な人に安心して、受け入れられる制度への改正に期待をしたいと思います。
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