Q&A

賃貸借トラブルについて

近年、賃貸借についてのトラブルが増加しているようです。特に、退去後の敷金の清算については、身近な問題としてご相談が寄せられています。そこで当会では、代表的なトラブル事例を元に賃貸借にまつわるトラブルのQ&Aを作成いたしました。 ぜひご覧ください。

質問一覧

建物を借りるときには、どのようなことに気をつけたらよいでしょうか。

契約は、「契約自由の原則」によって、当事者間で自由に内容を決めることができます。
賃貸借契約も、当事者の合意により成立するものであり、合意して成立した契約の内容は、原則として賃借人・賃貸人双方がお互いに守らなければなりません。
したがって、賃貸借の契約をするときには、その内容を十分に理解することが重要です。契約書をよく読まなかったために、後になってトラブルになる事例は少なくありません。契約書は貸主側で作成することが多いようですが、貸主側は契約の内容を理解してもらうことに努め、借主側は自分の希望を明確にした上で契約の内容を十分に理解して契約を締結することが重要です。
なお、賃貸借契約は、契約書面がなくても賃貸人と賃借人が口頭で合意するだけでも成立します。しかし、実際には、契約内容を明らかにしておくため、詳細な契約書が作成されていますし、宅地建物取引業者が仲介した場合には、宅地建物取引業者は契約条項を記載した書面を作成して当事者に交付することが義務付けられていますから、通常は契約書が作成されます。

※定期建物賃貸借の場合は必ず書面により契約をすることが必要です。

退去時の原状回復についてなど、トラブルになることがありますので、賃貸借契約書の内容をよく読み契約事項をしっかりと確認しておくことが大切です。
退去するときのトラブルを避けるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

退去するときの修繕費用等をめぐってのトラブルは、入居時にあった損耗・損傷であるかそうでないのか、その発生の時期などの事実関係がはっきりとしないことなどによって発生してしまう問題です。
そこで、契約内容を正確に理解することのほかに、入居時と退去時に、賃貸人・賃借人双方が立ち会い、写真を撮るなどして、物件の状況を確認しておくことは、トラブルを避けるために大変有効な方法です。
このような対応をしておけば、賃貸物件に損耗・損傷がある場合に、入居中に発生したものであるか否かが明らかになり、損耗・損傷の発生時期をめぐるトラブルが少なくなることが期待できます。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)においても、退去時はもちろん入居時にも賃貸人・賃借人双方が立ち会い、部屋の状況を確認しチェックリストを作成しておくことを勧めています。

賃貸借契約(契約更新を含む)では、借主に不利な特約でもすべて有効なのでしょうか。

「契約自由の原則」により、契約内容は、当事者間で自由に決めることができますが、賃借人に不利な特約は、賃借人がその内容を理解し、契約内容とすることに合意していなければ有効とはいえないと理解されています。
建物の賃貸借契約は、借地借家法の適用があるのが原則であり、借地借家法が定める事項については、借地借家法の規定と異なる合意を規定しても、借主に不利な特約として無効となるものもあります。
また、消費者契約法は信義誠実の原則に反し、消費者の利益を一方的に害するものは無効と規定しています。しかし、このような規定に反しない限り、契約自由の原則により、合意された契約内容は有効となり、賃借人に不利な特約がすべて無効になるわけでもありません。

原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約は、近年の(最高裁の)判例も踏まえ、次のような用件を満たしておく必要があると解されます。

  • [1] 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • [2] 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • [3] 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
契約書に「賃借人は原状回復をして明け渡しをしなければならない。」と書いてありますが、内装をすべて新しくする費用を負担しなければならないのでしょうか。
賃貸借における原状回復とは、賃借人が入居時の状態に戻すということではありません。
賃借人の故意や不注意、通常の使用を超えるような方法などにより賃借物に汚損・破損などの損害を生じさせた場合は、その損害を賠償することになりますが、汚損や損耗が経年劣化による自然的なものや通常使用によるものだけであれば、特約が有効である場合を除き、賃借人がそのような費用を負担することにはなりません。 賃借人が通常の使用方法により使用していた状態であれば、借りていた部屋をそのまま賃貸人に返せばよいとするのが一般的です。
敷金とは、どのような性質のものですか。
敷金は、賃貸借契約中に、賃借人の賃料支払債務(賃料の滞納など)その他の債務(賃借人が不注意によって賃借物に対して損傷・破損を与えた場合の損害など)を担保するために、賃借人から賃貸人に対して預け入れるものです。
そのため、賃借物の明け渡しまでに、未払賃料や損害賠償金債務など、賃貸人に対する賃借人の支払義務が生じていなければ、敷金は賃借人に対してその全額が返還されることになります。
なお、保証金という名目であっても同様の趣旨であれば、敷金としての性質を有していることになります。
賃借人が家賃を滞納している場合や、故意や不注意、通常でない使用方法などにより賃借物に損傷・汚損等を生じさせていてその損害を賃借人が賃貸人に対して支払っていない場合には、賃貸人はその損害額を敷金から差し引いた残額を賃借人に返還することになります。
なお、契約終了時に敷金(保証金を含む)のうち一定の金額をあらかじめ、返還しないとする敷引特約は、一定の要件を満たしている場合には無効であると考えられています。
長年貸している建物の家賃を契約の途中で増額することはできるのでしょうか。
土地や建物の賃貸借関係を規律する法律である「借地借家法」では、賃貸人や賃借人による「借賃(賃料)増減額請求権」が認められています(借地借家法32条)。
しかし、請求すれば必ず増額できるというわけではなく、借地借家法32条では「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、」として一定の要件が必要になります。また、契約途中に賃料の増額をしないとする当事者間の特約(賃料不増額特約)がないことや、契約で賃料を決定してから相当な期間が経過していることも判断の一事情とされる場合もあります。
賃借人に対する賃料増額請求は、どのような手続きになるのでしょうか。
まずは、賃貸人と賃借人の当事者同士で話し合いを行うべきです。契約当初とは事情が大きく異なっていることを具体的に説明し、賃借人に理解してもらいましょう。
当事者間での話し合いでは上手くまとまらない場合、裁判所での調停という方法があります。調停では調停委員が当事者双方から話を聞いて、当事者で合意ができるように調整を図ります。あくまでも当事者間での合意を目指すという観点から、いきなり訴訟を起こすのではなく、その前に調停をしなければなりません。(調停前置主義)
調停でも当事者間で合意が得られない場合には、訴訟を提起するという流れになります。
賃借人からの数か月に渡り家賃の支払いがありません。このままでは困るので退去してもらいたいのですが、どうしたらいいでしょうか。
賃借人から家賃の支払いの見込みがないのであれば、その賃借人を賃貸物件から退去させたうえで、新たな賃借人との間で賃貸借して賃貸物件から賃料による収益を得られるようにすることが、賃貸人の利益になると思われます。
まずは未払い賃料について相当期間を定めて催告し、催告期間内に支払がなされなければ賃貸借契約を終了させる旨の意思表示(解除)をしなければなりません。
また、解除の事情として単に家賃の支払いが1回なかったというだけでは足りず、家賃の未払いが賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊したといえるだけのものである必要があります。
建物賃貸借契約書には「犬、猫等の動物」を飼育することが禁止されていますが、賃借人が無断で犬を飼っているようです。何か良い方法はありますか?
マンションやアパートなどの集合住宅に関する賃貸契約書にはペット(飼育)禁止が定められていることがあります。
ペットの鳴き声・糞尿・臭気・逃走・噛みつき・病気などの問題が生じますし、建物の維持管理、近隣への配慮等の観点から、ペット(飼育)の禁止条項は合理的な制限であると解されています。
賃借人がペット禁止条項に違反してペットを飼った場合には、契約違反として賃貸借契約解除の原因になります。
ただし、一般的抽象的な禁止条項の場合には、ペット飼育によってもたらされる弊害が、その被害の態様・程度などから互いに他人にかけている迷惑が社会生活を送るうえで我慢できる限界を超えているかどうかを検討し、騒音・振動などが違法かどうかという基準を超える場合には、賃貸人との信頼関係を破壊しているか否かによって判断されます。
賃借人が家賃を支払わず、長期間連絡がとれません。建物に立ち入ったり、鍵を取り換えたりしてもよいのでしょうか?
契約中に賃借人が行方不明となってしまい、賃料も支払ってもらえない場合には、賃借人に対して、債務不履行に基づく契約解除を理由として建物明渡請求をすることができるでしょう。
建物明渡請求訴訟によらずに賃貸人が部屋に立ち入ることや、賃借人の残したものを処分することについては、認められないという裁判例が多く出されています。そのため、建物賃貸借契約書に、裁判手続きによらない部屋への立ち入りや、残置物の処分を許すような特約があったとしても、後日、住居侵入罪などの犯罪行為に該当すると判断されたり、慰謝料などを請求されるおそれがあります。
また、「賃借人が賃料の支払いを怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる」などの特約に基づき賃借人の留守中に鍵を取り換えた賃貸人の行為についても違法と判断された事例があります。