10日後

「先生、今日の取引の物件、今閲覧しましたけど何も変わりはありませんでした」

 今日の小金建設の取引の決済に備えてT法務局に閲覧に行かせた男性補助者からの電話である。

「そう…。変わりなかったね?」

「はい。前と同じです。全く変わりません。それでは、これからK法務局へ廻って帰って来ます」

 男性補助者からの連絡を受けると日間名は、今日1時からの本決済に備え最後の点検を始めた。

 −何も懸念はなかった。今までだって保証書に関することで問題になったことはなかった。後は、売主のハガキと銀行の設定書類を受け取れば一件落着だ…。−

 他の仕事を女性補助者に命じ、一件書類をカバンに入れ城南銀行のT町支店に行こうとした時、K法務局に廻っていた男性補助者が帰って来た。

 
書類
 

「ごくろうさん」

 日間名は、そのまま出て行こうとしたが、思い直して再度閲覧の結果を確かめてみたくなった。

「今日の取引、今から行くんだが、変わりなかったということだったよね?」

 日間名はくどいとは思ったが、どういう訳か電話ではなく、直接本人の口から間いてみたい衝動にかられたのであった。

「はい。何も変わりありませんでした。そのままクシが差してありましたから」

「うん…?チョット待ってくれ。今、確かクシが差してあったと言ったね?」

「はい。該当地番の処に差してありましたが…」

「君!!それはおかしいよ。保証書の場合仮の受付なんだから、事前通知のハガキを発送した段階では登記簿にはクシなんか入らないんだよ。今からもう一度行って開覧して来るんだ」

 日間名は、売主の何処となく暗い顔が思い浮かんで来ていやな予感がした。

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