異常に熱い日であった。首にまつわりつく汗が、さらに不快感を増していた。
だが、日間名司法書士にとって何となく落ち着かなく、不快な気がしたのは、この熱さのせいだけではなかった。
今日は、久しぶりに大きな取引に立会った。売買代金6億円。
この不況といわれる時代にあって、日間名にとっては、ありがたい取引の立会いであった。そういう意味から言えば、もっとウキウキして当然のはずなのに、仕事をやり終えた充実感や壮快さが感じられない。いや、不快感さえ覚えるのである。
いつもは決してこんなことはないのに、今日に限って気持ちが揺らぐのである。
日間名は立会い場所の銀行を出ると、流しのタクシーを呼び止めた。車内はヒンヤリ、と冷房が効いていたが、相変わらず気分が晴れない。
外界の暑さにもかかわらず、まるで寒風吹き荒ぷ、真冬の日本海側地方に居るかのような、薄暗くどんよりとした気持ちである。
日間名はタクシーの運転手に行く先を告げ、しばし黙考をした。
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