今となっては既に終わったことであるが……。
電話口の向こうから六法を繰る音が間こえてくる。少しずつ嫌な予感が襲って来た。まるで、急降下する為に最高峰の落下点を目指してガタン、ガタン、ギシギシと音をたてながら、少しずつ昇り上がっているジェットコースターに乗っているような、そんな不安と恐怖が重なりあった気持である。
ネクタイをさらに緩め、大きく息を吸い込んでも一向に息苦しさは治まらない。
「お客さん、まだ暑いですか?もっと冷房効かせましょうか」
日間名のしぐさをバックミラーで見た運転手は、気をきかせたつもりで問いかけた。日間名はそれには答えず、ひたすら磯樫の返事を待ったのであった。
随分と待ったような気がした。調べ終えたのであろう、磯樫からの返事である。
「やっぱり僕の言うことに間違いないよ。」
何と非情な一言であろう。冗談であって欲しい。日間名は再度問いかけた。
「いや、間違いない。」きっぱりした磯樫の声である。彼の確信を持った言葉に、受験時代の知識の記憶が日間名に甦って来た。しかし、いまさら甦っても遅いのである。
|