女性のシルエット     女性と保証書
 

筑紫支部 水野 清   

 田依内造は昨年司法書士試験に合格後今年の5月に開業したばかりのホヤホヤの新米司法書士であった。法務局の近くに5坪ほどの部屋を借り、細君と2人で事務所を経営している。

 仕事の量は他の先輩司法書士がそうであったように彼も又ご多分に洩れず暇を持て余す時間の方が格段に長い典型的な仕事の少ない新人司法書士である。

 その田依事務所に、年の瀬も押し迫った暮の27日、知り合いの金融業者が年の頃は30才を少し越えたか越えない位の女性を伴ってやって来た。

 女性はチャコールグレーのロングのタイトスカートに辛子色のジャケットをさりげ無く羽織っている。スカートの後には深いスリットが刻まれているが、派手でもなく逆にしっとりとした大人の雰囲気を醸し出している。

 その女性は田依に向かって必死になって言った。

 夫の実家の方で金が入用になったこと、担保にいれる物件の所有者は自分の夫であること、その夫は出張で来られないこと、権利書は夫の実家である長崎の姉方に預けていること。

 「もし先生の方で確認なさりたいということであれば長崎の姉方に電話して頂いても結構ですので、今日の処は保証書を作って頂いて登記を受理していただけませんか」女性の哀願するような申し出に田依司法書士は逡巡しながらも引き受けそうになるのであったが、新人とは云え彼の司法書士としての責任感がそれを押し止めるのであった。

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