目的の山をみる
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5月1日(月)
雲ひとつない青空が広がる。谷の奥深く隠れていた目的の山は、ベ−スキャンプに来て初めて北西の方向にその全容を現した。周囲の8,000m峰や7,000m峰に較べるとやや見劣りするものの、現地語でその名が示すようにシング−・チュリ(牡牛の角)は山容も素晴らしく、硬い雪の縦襞に覆われ厳しい様相をしている。山頂から南方に南山稜が伸び、また別に南東山稜が伸びて、さらに南東山稜が二つに割れて支尾根になる東山稜の三つの尾根が伸びている。南山稜と南東山稜は尾根の上方が雪庇に覆われているので登路は開けず、頂上に至るには東山稜に回り込む以外に道はないようである。
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ベースキャンプから見るシングチュリ(6501m) |
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この山は1,957年英国のウィルフレッド・ノイス等によって初登攀され、その後何回か登られているようだが日本人が登った記録が見当たらない。参考資料が少なく、そのような意味で大変魅力のある山である。私達が心強く思ったのは、プルパがかってこの山に登ったことがあるということであった。
今日一日は上方偵察と高度順応の調整日である。3,500mから4,000m前後が高度の影響が最初にでてくる地帯と言われているので、一日の行動を高度順応に充当することにしていた。高度差にして約500m程を登り、またベ−スキャンプに降りてくる予定であるので寛いだ気分でゆっくり出かける。
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シェルパ達は今日のうちにキャンプTを設営し、フィックス・ロ−プや燃料などデポできるものは荷揚げするのでポ−タ−を連れて先に出かけた。私達もその後をゆっくり登るが、彼等の姿は遠くに見えなくなった。私達は動きが鈍い、高度の影響は明らかである。10分おきくらいに休憩しなければ体が動かない。行き先を定めずただ登るのは無駄のようであるが、この過程を踏んでおかなければ今後の行動に差し支えることになる。3時間をかけて約4,700m近くまで登ったが明日からの準備もあるので引き返す。今日の最高到達点からベ−スキャンプまで僅か40分で降りてしまった。
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テントに着いた頃より雪が降り出した。どうも今回の山行きは天候に恵まれないようである。ただ今日の行動の結果、昨晩は全く喉を通らなかった食事が夜には食欲も出て、何の抵抗もなくお腹に収まった。今更ながら人が住まない高度に達することの難しさや人体の環境に対する順応力が実感できた。
昨夜からずっと気になっていたことの一つに、私達が昨日渡渉したモディ・コ−ラやゴルジュを藤井外2名のサポ−トチ−ムがどのようにして登ってくるか心配でヤンプ−と迎えの人員を相談したいと思っていたところ、彼のほうから報告してきた。4人のポ−タ−を迎えにやったこと。彼等に手紙を持たせて藤井達に付いているペンバやヌルブに渡渉地点や渡渉方法なども指示したということである。
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シングチュリ
ベースキャンプ(4350m)から見るマチャプチャリ(6994m) |
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